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アタック

順風満帆

目が釘付けになった。
知能指数は高いが、容姿はトホホなこの英会話サークルにあんな華やかな美女が入会してくるとは。
ヒラヒラの服を着ているのも、自分には新鮮だ。
巷ではよく見かけるが、自分の通う研究所や大学では、珍しい。

まあ、勉強いのちの鼻っ柱の強い女子が大半だもんな。
キャンパスで思わずため息をつくことは多い。
京都の国立大学。
ノーベル賞受賞者を日本一多く輩出している我が母校。
そんな学び舎に憧れ、何年も浪人する人間は多い。
自分もそんな一人、と彼らと苦労話でも分かち合いたいところだが、残念ながら僕は違う。
入試は無論、博士課程も、Ph.D.も難なくクリアしてきた。
正直な話、周りを見てよく思う。
そもそも勉強に向かない人間がどうしてムキになって偏差値や、ましてや博士号にこだわるのだろう?
その先には果てしなく「勉強」の海原が広がっているというのに。
一度きりの貴重な人生の時間を向いてもいないことに費やすなど、無駄だ。
話がそれてしまった。
とにかく彼女は素晴らしい。
でも、彼女はきっと僕などには目もくれないだろう。
きっと頼りがいある常識的な一般男性と結ばれるのだ。
例えば大手企業の営業職の人とか。
いつでもそうだ。
最初は、まあこの学校名の七光りで女性は大勢寄ってきてくれる。
だが、素直に自分を曝け出したが最後、彼女たちは例外なく去っていく。
僕の何が悪いのか?
正月以外、毎日研究室に通う点だろうか?
最新の研究レポートを入手すると、周囲が消えてしまうことだろうか?
いや、やはりたまに相手の名前やら存在自体を失念してしまう点か?
いずれにせよ慎重に検討する必要はある。

子供の頃のひどい振り方について

私は子供のころもてた。
小学校低学年のころの話。
その当時の自分は今思い出しても大した性悪女だった。
子供の世界にも、大人顔負けの恋愛事情がある。
まあもちろん、それがどういうものかまだ分からないまま、大人の真似事をしているに過ぎないのだが、子供ながらに当然本気の体当たりである。

私のことを好きな男子がいた。
一丁前に、廊下に呼び出されて告白された。
その時の気分は忘れない。
私はその男子のことが別に全然好きではなかった。
それなのに、雰囲気に呑まれて自分も好きだとかなんとか言ってしまったのだ。
なんて迂闊な子供だろうか。
それ以来、その子がなにかとちょっかいを出してくるようになった。
彼からしたら、要は「両思い」なのだから、ことあるごとに一緒にいたかったのだろう。
ところがその当時の私にしてみれば、別に好きでもない男に付きまとわれているという感覚だった。
そして、そういう自分が気持ち悪くなってしまった。
私は彼に、必要以上に冷たくあたるようになった。
すると彼は、悲しい気持ちをしたためた手紙をくれた。
でも当時の私はそれを呼んでも心を動かされることもなく、こんな女々しい男は願い下げだと、どんどん意地悪になっていった。
そのうちにクラス替えになり、彼とは自然に距離を取るようになった。
そして卒業する頃までには全く関係ない人になっていた。
今思うと、自分を思ってくれた人に対してひどい仕打ちをしたものだ。
好きになってもらえるというのがどんなに有り難い事なのか、当時の自分に教えてやりたい。
ただ、こうして文字におこしてみると、ああ、やっぱり今でも彼とは付き合えないな、と思う自分がいる。
結局三つ子の魂百までということか。
せめて、好きだといってくれる人に優しくなれるような度量を身につけたいものだ。