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卑猥

制御不能な笑い

驚いた。
キャンパスで、彼女を見かけた。
最初はサークル活動なんかで、偶然来ただけかと思った。
でも、どうやら同じ大学の、しかも同じ学部らしい。
しかも今日、一般教養の時間、大教室で一緒だったのだ。
彼女は、僕に気づいた。

目があった瞬間、なんとも気まずそうな顔をした。
それはそうだろう。
彼女が僕をバカにしきっていたことは周知のことだったし。
高校時代、僕は彼女の「追っかけ」だったのだ。
ストーカーでは、ない。
純愛だ。
この四月から、僕は晴れて第一志望のこの大学の学生となった。
一方彼女は、相当高いランクの大学を受験したらしい。
もう会うこともないだろう。
そう、思ってた。
受験間際の彼女は、もうノイローゼ寸前の状態だったのだし。
そうか、すると第一志望に落ちたんだな。
気の毒に。
僕は、ひとりごとをつぶやいた。
彼女は、将来有望な男をゲットするために、偏差値の高い大学を狙っていたのだ。
「オトコでオンナの未来は左右される。
そして、偏差値の低い男なんてサイテー」これが彼女の座右の銘だったと、聞いてる。
高校時代、校門の前で放課後僕は彼女を待った。
一目でいいから、彼女を見たかった。
雨の日も風の日も雪の日も。
大人しそうに見えて彼女は、猛烈な勢いで自転車のペダルを漕ぐ。
典型的な大阪人の「いらち」(せっかち)気質。
雨の日は、傘の下で真剣に受験本を見ながら歩いて帰る。
が、多少の雨なら傘はささない。
どんどん色気づいていく同級生たちとは真逆に、彼女はどんどん地味になった。
っていうか、受験一色に染まっていったのだ。
でも今、彼女は僕と同じキャンパスにいる。
同じ校舎で、もう4年間は一緒に過ごせるのだ。
これが赤い糸じゃなくって、なんなのだろう。
こみあげてくる笑みが、もう制御不能。